投稿者:笹生博夫(前SKIMO日本代表選手団監督)
投稿日:2025/03/19 (2025年ASC春の全国集会にて講演)
競技概要
山岳スキー競技(略してSKIMO)とは、登り時には踵がフリーになり、下り時に踵が固定されるタイプのビンディングを使用するスキー 一般的に言う山スキーを利用して雪山を駆け巡る競技。使うスキーは一般のスキーよりかなり軽量で、ビンディングも100グラム程度、ブーツも600-750グラム程度である。

カーボン製のレース用ブーツ 600グラム Gignoux社(仏) 製
ヨーロッパではアルプスの国境警備を任務とする各国山岳部隊の雪上訓練をもとにしてレースが発達した経緯もあり、フランススイス、イタリア オーストリア、スペインなどアルプス周辺国を中心に1シーズンに100余の大会が実施されている。
アルプスの稜線を縦横に上り滑降する長距離クラッシクレースからワールドカップなど大規模なレースから中高年男女まで幅広い層の人々が参加するローカル市民大会も多い。
競技カテゴリーは男女混合リレー スプリント、インディビジュアル バーチカル、チーム、などに分かれており、ジュニアの大会やシニアの大会もある。国際レースになると200名以上の選手が参加する。ヨーロッパアルプス周辺国では16歳の少年から男女成人選手から構成されるナショナルチームが結成され選手強化もさかんである。北米大陸でも普及しはじめておりいくつもの大会がカナダ、アメリカで開かれている。


競技種目
- スプリント 標高差80M程度のスロープに シール、ブーツでの登りセクション 滑降を組み合わせ選手は3-4分で一周する。
- 混合リレー スプリントに近いコース設定を男女二人がリレーしてタイムを競う。
上記二種目が 2026年のオリンピックの種目となった。
- チーム インディビジュアルよりもう少し長いコースを二人チームで
- バーチカル 標高差600-700mを登るだけのレースで選手は40分程度で駈け抜ける
- 長距離レース 本来の山岳スキー競技で、20-60km を上り下りする過酷な競技。50年近い歴史のある大会もある。
冬季オリンピック競技化へ
山岳スキー競技は、1924年シャモニーで開かれた第1回冬季オリンピックから48年大会まで4回、ミリタリーパトロールとして実施されていた。1990年代に入り、山岳スキー競技としてより組織化され、1999年国際山岳連盟UIAAの下部組織・国際山岳スキー競技協会(ISMC)として発足し競技体系として整備され、2007年にUIAAから分離独立しISMF国際山岳スキー競技連盟として活動を始めた。以来、各大陸別選手権大会や世界選手権大会、ワールドカップシリーズなど国際大会が世界各国で開催され、2022年6月現在、41か国が加盟するまでになった。
加盟国はヨーロッパだけでなく、北米、南米(アルゼンチン、チリ等)アフリカ(モロッコ)にもまたがっている。アジアでは、現在 日本に加え中国、韓国、イラン インド ネパール タイが加盟している。
2020年のスイスローザンヌで開かれたユースオリンピック冬季大会に於いて山岳スキーは正式競技として実施された。それに続いて東京オリンピックに合わせて2022年7月20,21日開催されたIOC東京会議で満場一致で2026年ミラノ・コルチナ大会の追加競技として採用されることが決定された。
レースの映像/リンク
日本での取り組み
この競技の国際競技連盟ISMFは、スポーツクライミングと同様、2007年まで国際山岳連盟UIAAの下部組織として活動していた関係で、参加の働きかけがあったのが日本山岳スポーツクライミング協会(JMSCA)が関わるきっかけである。それに応えて2004年3月スペインピレネー山脈のスキーリゾートで開催された第2回山岳スキー競技世界選手権大会に選抜選手を派遣したのがJMSCAとしての最初の取り組みであった。
この大会に参加した役員・選手が中心となって翌2005年4月17日日本で初めて大会が第1回山岳スキー競技日本選手権として、長野県小谷村栂池高原スキー場で開催された。日山協国際部のメンバーに加え長野県山岳協会の全面協力に地元小谷村栂池高原観光協会と降籏義道氏などの助力を得て初大会が実現した。この大会にはヨーロッパのトップ選手を招待したところ、集まった選手達はそのスタイル、スピードに驚いていた。以来2021年まで栂池で日本選手権大会が実施されその後、富山県宇奈月などで日本選手権が開かれている。2005大会成績優秀者は2006年2月開催の第3回世界選手権大会(イタリア・クネオ市)に選手4名派遣された。2006年4月の第2回日本選手権大会では韓国、中国から選手が集まり実質的にアジア初の山岳スキー競技国際大会として実施された。

日本で初めての大会ということで参加者は様々な格好で集った。

2022年第15回大会は、2月26,27日富山県宇奈月スノーパークで開催され64人がエントリーした。オリンピック競技になったということもあり、多くの観客が観覧に訪れた。メディアの関心も高くTVニュースや新聞などへの露出もかなりあった。SC放送 スカイAは、この大会の特集番組を放送した。以下のリンク YouTube で番組が見られる。
日本選手権や世界選手権を経験した選手達がそれぞれのホームゲレンデに知識を持ち帰り北海道、山形県、長野県、富山県など各地でレースや講習会を開催し現在に至っている。しかしトレールランニングやスカイランニングが盛んになっている中で山岳スキーはまだまだ普及しておらず現在の競技人口は約200人程度であるが,フェイスブックの山岳スキー競技サイトには700人以上が登録しており興味を持っている潜在人口はさらに多い。
Facebook 山岳スキー競技(Ski mountaineering in Japan)
今後、オリンピック競技化でアルペン、クロスカントリーなどスキー種目からの参加や、スカイランニングやトレラン選手、マウンテンバイク選手の流入もあり、競技人口が増えることが期待される。
国際大会での日本選手の実力は伝統があり選手層の厚いヨーロッパ諸国の選手に比べるとまだまだ及ばないところがあるが、アジア選手権では日本選手が常に上位を占めるなど優位にある。近年は20代の若い選手が実力をつけており、2026年に向けて選手強化に力を入れればヨーロッパの選手に負けない記録を出す選手も出てくると思われる。
以下伝統的な長距離レースのサイトへのリンクです。いわば山スキーをつかったハセツネレースの様なものである。
Pierra Menta Site officiel
Trofeo Mezzalama XXIII Edizione
山岳スキー競技の詳細をご紹介頂きありがとうございました.ミラノ・コルティナ2026冬季オリンピックでも注目されるといいですね.